『ごめん売っちゃった!』
すべてはこの言葉から始まったんだ…
そしてこの言葉が私のすべてを狂わせた。
15歳の春
これから高校生になろうとした矢先
私は親に捨てられた…
私の名前は東雲真-シノノメマコト-
昔から私たち家族はうまくいってなかった。
私が5歳の時にお父さんは交通事故で死んだ…
私は小さかったからあんまりお父さんのことは覚えていない
ただひとつ覚えているのは
その時からお母さんがおかしくなったこと…
今まで飲まなかったお酒を飲むようになり酔うと私を殴った。
そして男遊びが激しくなり家に帰ってくることも少なくなった。
ご飯なんて作らない。
いつも机の上には1万円が置いてあって。
それで数日を過ごしていた。
それでもお母さんを嫌いにはなれなかった。
どんなお母さんでもお母さんだから。
お母さんがおかしくなった原因を幼いながらに理解していたから。
でもあの日…
私はすべてを失った。
家族
家
学校
そして
心を…
“ごめん売っちゃた!”
そう言ってあの女は私を置いて男のところに行った。
私はあまりの悲しさに涙もでなかった…
もうどうでもいい
無力感しか残っていなかったんだ。
ピンポーン
そんなときにチャイムが鳴った。
「はい…」
ドアを開けると黒いスーツを着て黒いサングラスをつけた長身の人がたっていた。
なんとなくだけどわかった。
“この人に売られたんだ”
「君が東雲真?」
「そうだけど…」
そう言って男はサングラスを外す。
サングラスをかけていた時から何となくわかっていたけど
顔立ちの整った綺麗な男だった…
これを世の中じゃもてる男というのだろう。
でも今の私にとってはそんなことどうでもいい。
かっこいいただそれだけのことだから…
でも器の広い人間ではあるらしい。
こんなガキにタメで話されてるのに顔色一つ変えない。
「話は聞いてるね?」
「まぁ」
ニコッと笑って聞いてくるその顔はそこらへんの女だったらころっといくんだろうけど私には通用しない。
完璧に目が笑ってないから。
なんで無理に笑うのか私にはわからなかったけど、私はそこに突っ込もうなんて思わなかった。
「準備はできた?」
「まだ…」
男は前髪をかき分けながら
「そうか…」
そう一言だけ呟いた。
その様子を見て私は急いだ方がいいと思い
「準備してくる」
そう言って部屋の中に入った。
準備と言っても私がもっていくものは洋服と
この写真くらい…
私が5歳でまだお父さんも生きてた頃。
家族で撮った唯一の写真…
もう二度と私がこの写真のように笑うことはないだろう。