騒がしい友人たちのやり取りを一瞥すると、ルブタンのパンプスに足を沈めた。
これは初給料を頂いたトキに大枚を叩いて購入した、アンクルストラップ付きの靴。
未だに自身と馴染まぬブランド靴から、拓海の顔が浮かんでは悲しみを増していた…。
東条社長の秘書をするには、それなりのスタイルをしなければならない――
初めて東条グループの秘書課に足を踏み入れたトキ、そう悟ったのが購入理由で。
それからは何処へ出て行くにも恥ずかしく無いよう、靴は高級ブランドを揃えていた。
さらにハイヒールを履けば、必然的に背筋を延ばして歩かなければならない。
愛しいヒトの後姿を追う為に、弱虫な自身を奮い立たせる材料にしていたの・・・
そうして見た目で選んだ靴は、急いでいる私を宥めるように履き辛かったけれど。
この煩わしさが冷静さを取り戻してくれて、ゆっくり店内を歩み進めていた私。
感情のまま動けば、今までの努力は水の泡となりゆく…――
ソレだけを頼りに、足がふわふわと地面に着かない感覚と必死で戦いながらも。
本心では拓海を想う度、この場で泣き崩れそうな程の苦しみが取り巻いていた…。
この命を差し出しても構わナイ…、神様はそんな願いをなぜ悪戯に聞き入れたの?
ズルくて卑怯な私でなく…、どうして拓海なのですか・・・