それでも菫に帰ると告げてから居酒屋を出るまで、忍耐のトキが続いていた…。
「どうかしたー?」
「うーん…、それがねぇ…」
電話で告げられた、受け難い事実に対する恐怖と全身の震えも。
電話を終えたあと、何も知らない菫の言葉で泣き出しそうな苦しみも。
すべてを抑制するコトは、まるで強靭な刃で貫かれるような痛さだったのに・・・
「…お母さんからだけど、大事なお客様が来たから帰って来てって…。
悪いけど…、帰らせて貰っても良いかな――?」
スラスラと偽りの御託を並べながら、無情な笑みを零す私はオカシイ…。
「おばさんも電話して来るくらいだし…、気にしないで帰りなよ?
でも下手に報告してると遅くなるし、このまま消えた方が良いかも。
あとで皆には私が言っておくから、ね?」
「っ…、ありがと」
隠し事はしないと約束した親友に、秘密を重ねる罪悪感が募りゆく中でも。
言ってはイケナイ…、この想いがストッパーとなって喉を痞えさせていた。
「それじゃ…、ゴメンね?」
「うん、またね!」
ガヤガヤと煩い店内に、2人の会話を掻き消されていたのが幸いして。
カバンを手にして席を立ち上がると、菫に手を振って退出するコトが出来た。