あんな精神状態でなければ、きっと激しく嘔吐していたに違いない。



大振りのナイフで何度も体を突き刺し、刔り出し、引き裂き、溢れてくる血液と内臓を―…泣きそうな瞳で見つめながら。




顔は殆ど覚えていないのに、なぜか―…その瞳はあまりに印象的過ぎてよく覚えている。




もう一度パーカーのフードを被り直し、溢れて頬に伝う涙を、血に塗れた両手で拭った。



『…………、遥、…これで、仇は…打った…!』



泣いているのでは無い。



その声は、笑っていた。



泣きながら、笑っていた。



『……はははっ、…ぁ、あ、ははっ、ひゃはははは!』



笑いながら、何度も誰かを呼んでいた。



泣きながら、紅蓮の肉片を抱きながら。




『遥……遥ッ、あはははっ、有難う、有難う遥、ははっ、仇…紅蓮……………ーー』



聞き取れなかった最後の言葉。



しかしそれをつぶやいた瞬間、そいつは…笑いを消して、喚くように号泣していた。


紅蓮の亡骸を抱いて。