「俺はただの通行人だよ、荊徒紫苑。左腕はないけど、あんたと打ち合うくらいはできるよ。俺を斬ろうとか考えないように」



「…お前、誰?」



「だからただの通行人だってば」



「名前を、聞いてる」



「因幡梓。因幡の素兎の、いなばね」



「………へぇ」



偶然だろう。



きっと他人の空似というやつだ。



そもそも、桐堤紅蓮は。



自分の目の前で、血飛沫と臓器を撒き散らしながら、八つ裂きにされたのだから。



その瞬間に、全ての感情を忘れてきたのだ、俺は。



「……よく、わからないけど。俺、もう帰るし」



「あぁ、待って待って。俺あんたとお喋りがしたくてここまできたんだから。…俺、この先のバーで寝泊まりしてんの。働きながら。ね、暇だったら来いよ。な?じゃ!」



…性格まで似ている。
体が少し震える。
歓喜?






…まだ、紅蓮を捨てきれていなかったのだ、俺は。