「どうだか」

そんな言葉を残して彼は去っていった。



はぁ…。


もう金輪際あいつの顔を見たくない。

毎回会うたびにそう思うのに会ってしまうのは何故だろう。



「あの…、義平様にございますか?」



ため息をついていると後ろから声が聞こえてきた。

か細くて守ってあげたくなる声だ。

「あぁ。いかにも」


声の主を振り返ったとたん、体中の血が逆流した。


「良かった…。探し申し上げておりました。荻様の女房の藤と申します。以後お見知りおきを」


本当にホッとした様子の藤殿。


純粋そうな眼差し

透き通る声

化粧を知らない白い頬

薄く紅の塗られた赤い唇

細い手に細い体。

十二単が鎧に見える。