(僕は何故…魔族でもなく、人間でもなくトランスだったんだろう?いきなり人間ではないと言われ…魔族の王の子だと言われ…次は王位継承者だって?…僕は僕じゃないのか?トランスでもなく、神官でもない。…僕は僕っていう存在…それじゃあ存在理由にならないのだろうか?…それとも、僕には何か使命があるのだろうか?魔族でもなく…人間でもない、トランスとしての使命が…。)

ノゥンはずっと考えていたが、段々とウトウトとなりいつの間にか寝てしまった。




翌朝、ノゥンは顔をくすぐられたような感覚に目が覚めた。

見ると、スカーレットがノゥンの髪を引っ張ったり、ほっぺたを触ったりしていた。

「こら、スカーレット!あんまり悪戯するなよ。」

ノゥンは微笑みながらスカーレットを手のひらに乗せる。

シンもタカもまだ眠っているようだった。

目が冴えてしまったノゥンは、スカーレットを連れて部屋の奥にあるこの家唯一の窓へと向かった。

辺りはまだ薄暗かったが、水平線の彼方は赤紫色に光っており、ゆっくりと太陽が登ったのがわかった。

「スカーレット、君はこれが見たかったの?」

そう言って、徐々に明るさを増す太陽を見ると、何故か色々な不安が消えていくような感じがした。

(自分はトランスだけど、この太陽を美しいと思う心は自分だけのものだ。僕は僕…それでいいんだよね?…。)

ノゥンは半分自分に言い聞かせるように心の中で思った。

そんなことをしていると、タカがいつの間に起きたのか後ろから小突いた。

「はよー、ノゥン。…昨日のことはあんま気にすんなよ!…とりあえず、人間になる方法はあるんやし。」

タカが気を使って言っているのが、ノゥンには痛いほど伝わっていた。

「ありがとう、タカ。…大丈夫!別に気にしてないよ。それより、この事をシンに話さなきゃ。」

明るく振る舞うノゥンに、少しホッとした様子のタカだった。

二人はシンのところまで戻ると、まだ眠っているシンを見て笑い合った。

そして、何とかノゥンがシンを起こしている間にタカが朝食を作ってくれた。

シンは寝起きが悪いらしく、思いっきり不機嫌そうな顔で席に着いた。

「ほんまお前は朝弱いんやから!…いいかげん目ぇ覚ませよ!」