その夜、ノゥンは夜中に目が覚めた。何となく眠れなかったのである。

辺りを見回すと、隣りではタカが疲れているのかグッスリと眠っており、反対側ではシンが豪快ないびきをかいていた。

ノゥンは二人の寝顔を見て考えた。

(この二人は見ず知らずの僕を受け入れてくれて、…人間じゃない僕を人間にしようとしてくれている。…暖かい、こんな気持ちは初めてだ。とりあえず今は…二人の気持ちに甘えよう。トランスのことも、もう少し知りたい…。)

いつの間にかノゥンは深い眠りに落ちていた。




翌朝、ノゥンが目覚めたときにはもう二人とも起きていた。

「おっ、起きたか?はよーノゥン!」

タカが相変わらずの笑顔でノゥンを見る。

「うっす、ノゥン!…鳥の巣頭やぞ!」

シンもニッと笑いながら、寝癖のついたノゥンの頭をグシャグシャと撫でた。

「おはよう。タカ、シン。」

ノゥンは恥ずかしそうに寝癖を撫でながら二人に言った。

「とりあえず、ノゥン…その頭直して来い!その間に朝メシ作っといたるから。」

タカが笑いながら料理の支度を始めた。

ノゥンは言われた通りに洗面所で寝癖を直していると、キッチンからいい匂いが漂ってきた。

さらにタカとシンの楽しそうな声が聞こえてくる。

ノゥンはこの何気ない空間に、居心地の良さを覚えた。

目が覚めたときに側に居てくれる安心感。自分を特別扱いしない二人。

(こんな毎日が続いて欲しい…。)

これがノゥンにとって、初めて強く思った願いであった。




ノゥンが部屋に戻ると、すでにテーブルの上には料理が並べられていた。

「よしっ!頭直った見たいやな。早よメシ食べよー。」

タカがノゥンを急かす。

「その前に二人に話がある。」

突然低い声でシンが言った。

「鉄馬のことやけど…結局クライが無い以上、あれはノゥン無しでは飛ばへん。けど…それやとかなり不便や。…ノゥン、お前は嫌かもしれんけど…やっぱ俺らにはクライが必要や!やからノスリーで他のクライの在処を探して来てほしい。」

そう言ってシンは頭を下げた。