シンは再び言葉を失ったまま、ノゥンをじっくりと見た。

銀髪に緑色の目、人以上の魔力。確かに見た目は少し変わった姿の人間だが、魔力の強さなどを考えるとトランスに当てはまるのだった。

全員が沈黙する中、シンが突然思い立ったように言った。

「ノゥン、ひょっとしたら人間になれるかもしれん!」

ノゥンもタカも顔を上げてシンを見た。

「昔、じっちゃんがゆうてた気がする。“トランスは魔族と人間の合いの子、魔族にもなれるし人間にもなれる。それは本人次第、運命の赴くまま”…って!」

目を輝かせるシンにタカも、

「人間になれるんか!?やったらそれがえぇ!ノゥン!人間になれるまでオレらが守ったるから!…で、肝心の方法は?」

と嬉しそうにシンに尋ねる。

「…さぁ?俺も方法までは…。そう言えば、ノスリーの大図書館にそう言う本とかあるかもしれん。あそこは古くから古文書や研究者が集まる国やから。」

タカはシンの言葉を真剣な表情で聞いた後、二カッと笑ってノゥンの肩を叩いた。

「うっし!ノゥン!次はノスリーや!人間になる方法、探しに行こっ!」

嬉しそうに言うタカに、ノゥンの心は複雑な気持ちだった。

(僕はトランスと呼ばれる存在…。タカ達の獲物だったんだ。この魔力は…この姿はトランスだから。あのクライは僕と同じトランスの死後の姿…。僕は…今まで自分が人間だと思い、生きてきた。…人間になる方法?今の僕は人間じゃない?…僕は…人間じゃない。)

黙ったままのノゥンを放って、タカ達は準備をし始めた。

「タカ!とりあえず俺は鉄馬のメンテしてくるわ。」

そう言って鉄馬の方へ消えて行くシン。

「んじゃーオレは晩メシと旅の支度でもしょっかな。」

独り言を言いながら料理の支度を始めたタカ。

ノゥンはさらに複雑な思いを巡らせていた。

(二人は僕の為に人間になる方法を探そうとしてくれてる。…でも、僕は…人間になりたいんだろうか?クライになったトランス達…。トランスのままだと狙われ続ける運命。…そんなの間違ってる。人間もトランスも何も変らないだろ?僕達トランスは人間の道具にしかならないのか?)

このとき、ノゥンの心の中に人間に対する不信感が芽生え始めていた。