…なんだったんだ、あれは。

ひかるは、なんだか怖かった。
あんな風に自分に接してくる男がいることが。


一体彼は何者?


気付けばさっきまで気になっていたことは、頭から綺麗になくなってしまって、残ったのは、彼のことだけだった。



廊下に立っている柱に寄りかかって、ふぅと息を洩らすと、ひかるはハッとした。

…あいつにお礼、言ってない

そしてさっきの階段へと走って戻った。





しかし、そこにはもう彼の姿はなかった…。











やることがなくなったひかるは再び教室に戻ってきた。

「あっ、お帰り〜」
「早かったじゃん」
「んー、何でもなかったー」
「当たり前だろ、ちょっと疲労たまってるんじゃない?」
「そーかも」
「いつも派手に動いてるからね〜…」
「ま、沙羅達は助かってるけどねっ!舞園のナイトさんっ」
「ナイトって言わないでよね」


さっきの彼がまだ少し気になるひかるだったけれど、裕美と沙羅と話してるうちにいつの間にか忘れていた。


「ね、さっきは聞きそびれたけどさ、沙羅と裕美の理想ってどんな人なの?」

ひかるはみんなの“理想”を聞いてみたくなった。

「そうね〜…私の理想は引っ張ってくれる人かな〜」
「裕美はおっちょこちょいだもんね」
「そんなことないもんっ」
「ふーん…」
「あれあれ?引っ張ってくれる人がどんな人かわかってないのかな、ひかるちゃん?」

反応の薄いひかるを沙羅がつっつく。

「うっ、うるさいな〜!わかってるよーだっ」

…図星。

「ほ、ほらっ!次、沙羅の番」
「怪しーっ☆う〜ん、沙羅はねぇ…おっきい人かなっ?」
「へ?背が?」
「ん〜それもあるけど、心とか器とか背中とか!」
「背中大きい人好きなの?」
「うんっ、なんか良くない?」
「わかんないよ」
「私もよくわかんない〜」

少し批判を受けて沙羅は口を尖らせた。