ひかるは咄嗟に受け身をとった。





……………………あれ?

いつまでたっても衝撃が伝わらない。
ひかるは、恐る恐る目を開けてみた。

「?!」

誰かがひかるを抱き留めてくれたようだった。
ひかるのお腹の前にしっかりと腕が回されていた。


ひかるは慌てて飛び退いた。
勢い良く顔を上げると、見たこともない男子が立っている。

…誰?1年生?

だけどすぐにひかるは考えた。
きっと、自分が鳴海ひかるだってすぐ気が付いて謝られるんだろうなぁ、と。


少し悲しく思いながら身構えていると、彼はこう言った。

「…どこか打った?」

ひかるは予想外の言葉にきょとんとしてしまった。

「……何?」

ひかるの反応がないので、彼はまた口を開いた。

「あっ、いや、えっと…大丈夫…だけど、なんで?」

慣れない会話にひかるはしどろもどろ。
すると、その彼はフッと頬を緩ませて笑った。

「…君、可愛いね」
「////?!」

慣れない会話に慣れない言葉。
いや、可愛いは絡んでくるナンパ男によく言われるけど…、それとは違った柔らかい響きがした。

予想外のことにひかるの頭はパニックで、自分がした質問に答えてもらえてないのも気付かない。
とにかくこの場を終わらせることしか考えられなくなっていた。

「か、か、可愛くないです!さようならっ」

そう言うとペコッと頭を下げて走り去った。
その場に残された彼は、一瞬またフッと頬を緩ませたが、特に気に留めることもなく鼻歌混じりに階段を登り出した。