「はぁ…っ」

わざと大きなため息を洩らすと蒼はひかるの方を見た。


「もう、あんたのせいでね…」
「…杉原って呼び方やめて」
「はっ?!」

ひかるが愚痴を言おうとしたのに、蒼はそれを遮った。

「今、あたしが喋ってるんだけど」
「…気になった」
「あのね…」
「…蒼って呼んでよ」


全然、話せない…。
ひかるは小さく息を吐くと諦めたように頷いた。


「わかった、蒼って呼ぶから」

それを聞くと蒼は嬉しそうに笑う。


ひかるは蒼のその顔を見て機嫌が悪そうに顔を反らす。
…が、蒼はまだ解放してくれなかった。



―ガタガタッ

机を動かすような音に驚いて振り返ると、蒼が机を寄せてきていた。

「えっ?ちょっ」
「…教科書、見づらいから」

最もなことを言うので何も言えなくなるひかる。

そんなひかるを見て蒼は頬を緩める。

「…やっぱり、ひかる可愛い」
「////」

…またっ?!

「う、うううるさいっ」

慣れないことにひかるは再びしどろもどろ。
蒼はそんなひかるの反応を楽しそうに笑っている。


「もうっ!あたしの反応で遊ばないでよっ」
「…遊んでないよ。可愛いと思うから言ったんだ」

蒼は真剣な顔をした。
ひかるは言葉に詰まる。


「う、あ…あのさっ。階段で、助けてくれて、…その、ありがとう」

顔を真っ赤にしてお礼を言うひかるを、蒼は少し驚いたような目で見てから愛しそうに笑った。

「…うん」