蒼の何気ない一言で一瞬周りの空気が凍り付いたように感じた。

ひかるは心臓も止まるかと思ったくらいだ。


「ちょ、杉原…。今はそんなことどうでもいいでしょ」

…ていうか、話し掛けんなっ

笑顔と言っていいのかわからないくらいの口角を上げただけの顔で返事を返す。



「…俺にとっては重要なの」

もう一度、教科書見せてね、と言って蒼は席を立った。


ひかるは大きなため息をついた。
しかしこれで終わりではない。
次にひかるを待っていたのは、鬼のような形相の女子達。


「ひかる〜。一体彼とどういう関係なのよ」
「蒼くんの何なのよ」
「知り合いってどういう知り合いなのよ」

質問しながら詰め寄ってくる女子にひかるは本気で怖いと感じた。


…ひぃぃ、助けて。

救いの目を沙羅と裕美に向けるが、2人はそれを楽しむかのような表情で歯を見せている。


…くっそぉぉ、後で覚えとけよ
小さく拳を作ってから迫る女子を見つめた。

「あたしと杉原はなんでもないって!ちょっとみんなより先に出会っただけ!」


ほんとに?というような顔でひかるを見つめる女子。
ひかるも嘘をついていないので女子を見つめ返す。



すると女子達は、ニヘッと目尻を垂らして笑うと

「な〜んだ、よかった」

と言って去っていった。



ヘタッと椅子にうなだれるひかるの目に、チャイムを聞いていそいそと着席する蒼が映った。