「なくて当たり前だよ。ここは君のいた世界とは異なる場所だから、分かりやすく言うのならーー異世界」
……!この声、あのカフェの店員さん?!
バッと振り向けば、同じように建物を見上げている。枯れ草色の髪ーー間違いない。
「あの……異世界って、どういうことですか?」
「そのままの意味だよ。小説だと、最近よく異世界転生とか流行ってるでしょ?そんな感じ。あ、でもこれはオレの力で見せてる幻影だからーー大丈夫?ちょっと一度に話しすぎたかな」
悪びれた様子もなく淡々と青年は言う。
頭がついていかないんですが……。とりあえず名前を聞くべきだろうか。
「私、言鳥深鈴(こととりみすず)っていいます。あなたは?」
「ああ、名乗ってなかったか。ファイだよ。よろしくね」
微笑む姿も絵になる。どこか、腹黒そうでもあるけど……。