「うわー。 めっちゃ電車混んでる。」

「座れないなぁ。」

裕太のどこを好きになったのかと問われたら、間違いなく「中身が好きだよ」って答える。
普段はバカなことやってるし、授業をよくサボっちゃうし、駄目だって言ってることを何回もやっちゃう駄目な奴だけど、いざって時は頼りになるんだ。

「美由、こっち来な。」

「うん。」

ほら、例えば今みたいに電車が混んでるときに、私が人ごみに押し潰されそうになってたら、助けてくれる。
こんな優しいところが大好きになったんだよ。
自分だってそんなに大きくないから大変なはずなのに、それでも私を守ってくれる。
こんな人の彼女になれたら、幸せなんだろうなって思ったんだ。

「自分ら、いつも一緒やな。」

「それは裕が私を呼び出すから、仕方なく付き合ってあげてるんだよ。」

「なんでやねん! 美由だって呼び出すじゃん。」

「裕に比べれば少ないし。」

構内でも私たちはほとんど一緒。
といっても、それは最近のことだけど。
今みたいにすごく仲良くなったのはわりと最近のことで、ここ一ヶ月ぐらい。
それまでは週に二回しかない講義が一緒の日に喋って帰るだけの仲だったんだけど、ここ一ヶ月で一緒の講義がない日でも一緒にご飯食べたり、どっちかの講義を教授に内緒で受けたりと二人でいる時間が増えた。勘違いしちゃうよ。私は裕太にとって、特別な存在なんじゃないかって。

だけど現実を突きつけられるときは、心臓が止まりそうなぐらい痛くて苦しくなる。
彼女の話をされたときとか、今日はデートなんだとか笑顔で言われるとき、やっぱりただの友達なんだって思い知らされる。