里中さん。
彼女は本心で、
『自立支援の申請をしたい』
そう思っている方です。
その上でわたしに『申請した方がいいか?』と聞いて来た。
どうしてだと思いますか?
里中さんは言っていました。
『自立支援受給者証なんて持っていたら、『精神病』と思われる』
だからこそ、『決断』は他人任せにしたい。
『申請してください』
仮にわたしが遠藤さんと同じ対応を里中さんにしたら、
『申請していいのね?』
里中さんはそうやって念を押してくることでしょう。
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里中さんの申請理由は、
『永花さんに申請を薦められたから』
そういうことにしたいのです。
ご主人の手前もあるのかも知れません。
そして、そういう方が自立支援を持った場合、
『精神病』と言われたりとかの何か『嫌』なことがあると
『永花がそう言ったんだから、永花が全て悪い』
そうなります。
里中さんは片山さんと同じで、とても頭がいい方です。
きちんと『自分で考える』力がある。
そういう方には自分で決めていただくよう、対応させていただいております。
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さあそろそろ、男性病棟へ上がりましょう!
メガネさん、気をつけてくださいね。
男性は可愛い女の子が大好きですからね。
ロボットさんも違う意味で気をつけて。
『何に』?
……行けばわかります(笑)。
暴力的なことじゃないので『ひと安心』してください。
『安心』じゃなくて『ひと安心』。
では、行きましょう!
階段はこちらです!
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さあここは3階、男性病棟です。
ここは大部屋ばかりなので、患者さんは開放されています。
上の4階は男性専用の隔離室、監察室になっています。
「ドクター!ドクタ〜〜!」
……早速やって来ましたよ、ロボさん。
彼は牧野さん、39歳です。
知的障害、精神発達遅滞があり、ああやっていつもオモチャを持ち歩いています。
オモチャは牧野さんの精神の安定に有効なので、病院も牧野さんについてはオモチャの持ち込みを許可しています。
牧野「ドクター、ねえ、あなたドクター?」
※ロボさんに話しかける
・
牧野さんは、男性を見ると『お医者さん』だと思って話しかけるんですよ。
病院のスタッフにも、入院している患者さんにも同じように話しかけます。
牧野「ねえ、あなたはドクター?」
※ロボさんに話しかける
永花「牧野さん、この方はロボさんです」
牧野「ドクターじゃないの?」
永花「え……それは……まあ確かにDr.なんですけれども……」
牧野「ねえドクター、ぼく熱っぽいよ?」
永花「牧野さん、看護師さんに言ってくださいね」
牧野「ヤダヤダヤダー!ねえこの人、怖い人?」
※永花を指さして言う
・
永花「牧野さん、ロボさんは今『忙しい』から、今は牧野さんとお話することは出来ませんよ」
牧野「ねえドクター?あの人なんか怖い人だよ?」
※永花を指さしてまたしても言う
永花「ま・き・の・さん!」
牧野「はい、何ですか?」
※怖々と永花を見る
永花「後でじーっくり、わたしと二人でお話しましょうね?」
牧野「嫌ですッ」
※逃げ出す
永花「牧野さん、廊下は走らない!」
牧野「ハイッ!」
……もー。
ああやって、牧野さんはわたしを見るたびに逃げて行きます。
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牧野さんはあの通り巨漢で……『糖尿病』の疾患もあります。
あと『水中毒』。
甘いもの、水分の採りすぎなんですね。
病院の食事はもちろん、お茶などの水分も病院で制限しています。
水分はコーラ等の炭酸飲料を1日10リットル以上
お菓子は放っておけば1日中食べています。
ご両親は牧野さんを
『この子は病気なんで可哀相だ』
と、溺愛。
求められるまま甘いものや炭酸飲料を与え続けた結果、そのような食生活になっていました。
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『知的障害』『精神発達遅滞』の疾患もあり
薬もたくさん飲んでいる牧野さん。
痩せないと命に関わります。
それが牧野さんの『入院理由』で、『食生活の改善』が牧野さんの『診療計画』です。
先日、牧野さんのお父さまが面会にいらした時
お父さまがこっそり牧野さんにお菓子をあげていたんです。
永花、そりゃあもう牧野さんのお父さまを説教しました。
それからですね、
『永花は怖い人』
そう牧野さんに思われるようになったのは……トホホ。
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まあ、『怖い人(永花)が怒るから』という理由でも牧野さんがお菓子やジュースを飲まなければそれでいいので気にしてないです。
それに……
牧野さん、素直でとても可愛いんですよ。
お父さまが可愛いがる理由もわかります。
だからこそ、きちんとした食生活をして欲しい。
そして早く退院させてあげたいです。
お父さまやお母さまに、それをきちんと理解していただくこと。
牧野さんのケースでは、ご家族へのフォローに力を入れています。
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