お父さんと杏奈がいなくなってから、私とお母さんはリビングに戻った。
お母さんは麦茶をついでくれたけれど、それを口にする気にはなれなかった。
「行っちゃったね。嘘みたいだね。昨日の朝まではいつもと同じだったのにね…。」
「ごめんね…陽菜…。」
「仕方ないよ。お母さんが悪いんじゃないもん。」
「ごめんね…」
「そんなに謝らないでよ。」
「お母さん、実家に戻ろうと思ってるの。」
「え?お母さんの実家って…引っ越すってこと?」
「ええ、この家にいるのは耐えられないから…。一応お父さん名義なの。」
「いつ?」
「すぐにでも準備して行くつもりよ。今は、おばあちゃん一人でしょ?部屋も十分あるし、それなりに物もあるから…、それに今は働きに出ないといけないでしょ?そこでパートするわ。陽菜はおばあちゃんにみてもらえるし。」
「私、転校するの?」
「そうね。……反対?」
「ううん、お母さんについて行く。」
「そう、ありがとう。それなら今から準備して、荷物送るわ。学校は担任の先生に話して、手続きは月曜にしましょう。」
「転入試験とかあるのかな・・・。」
「そうね…、勉強しておきなさい。明日にも引っ越すから。」
「分った。」
私は部屋に戻って引越しの支度を始めた。
この家は明日には空っぽになる。
嘘のようだと思う。
昨日の朝はいつものように起こされて、杏奈と言い合って、お母さんにせかされて家を出たのに…。
何が違ったのだろう、どこで間違ったのだろう。
ふと携帯を見るとメール着信があった。
怜奈だ。