私は涙を拭い、何とか気づかれないように、家に入ろうとした。
けれど、玄関を開けると、ぱたぱたと慌ただしくお母さんが出てきた。


「ただ・・い・ま・・・」

「おかえり。陽菜、ちょっと話があるのよ。」

「お母・・さ・ん。あた・し、今そ・・れどこ・ろじゃ・・・」

「早く制服着替えてらっしゃい。」



お母さんは私にそう告げると家の奥に入って行った。
こんなときに何なんだろう。
全く空気読めてないよ、お母さん。

私は仕方なく部屋に行き、制服を着替えた。


コンコン・・・

「はい。」

「お姉ちゃん・・・」

「杏奈か、何?お姉ちゃんお母さんに呼ばれてるから行かなきゃならないんだけど。」

「お父さんが帰ってきてるの・・・。」

「嘘?何で?休みでもないのに?」

「ねぇ、杏奈怖いよ。お父さんとお母さん、ずっと怖い顔して話してるの。リビングに杏奈を入れてくれないの。」


お父さんは単身赴任で他の地方に行っているので、連休でもない限りは滅多に家に帰ってこない。


「大丈夫よ。お姉ちゃんが聞いてくるから、杏奈は部屋で待ってな?ね?」

「・・・うん。」



杏奈をなだめると、私はリビングに向かった。




ガチャ・・・



「杏奈・・・、久しぶりだな。」


リビングにはゴールデンウィーク以来会ってなかったお父さんが、笑顔で座っていた。





けれど、子供の私には分かる。
お父さんの目は笑ってなかった。