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心が、俺の絵莉衣に対する気持ちが、黒く、黒く真っ黒に塗りつぶされていく。そんなかんじだった。

「ゆうくん」

その声でソイツを呼ぶな。

「ふふ、私も好きだよ」

その笑顔を俺以外に見せるな。
その言葉を俺以外に聞かせるな。

恋とか愛と呼ぶには重すぎて、酷く醜い感情が蠢く。やめろ。俺が好きなんじゃないのかよ。

「しぃ、次の授業英語なんだけど…辞書かして」
「…元木に借りればいいだろ」

口に出したくもない絵莉衣の今の彼氏の名を出す。絵莉衣は笑って

「ゆうくん辞書持ってきてないんだって」
「…勝手にとれば。つかやるよ。俺使わねえし、北沢いつも借りにくるだろ?正直ウザイ、そういうの」

最近やっと呼び慣れた絵莉衣の名字。キタザワ、そう呼ぶ度俺と絵莉衣の距離が開く気がした。

「…しぃ、ねえなんで怒ってるの」

泣きそうな顔で俺の腕を掴む。

「さわんな。…もうお願いだから話しかけないで」

腕を払い凄んだ口調で言おうとして失敗。俺の声は今までにないくらい震えていた。

「…キタザワ、もう俺お前の顔見れねえよ」

そう言うと絵莉衣は微かに涙を浮かべ辞書だけ持って走って行った。

「司衣、どうした」

机に伏せた俺にクラスメートが話しかけて来たが顔は上げなかった。



いや、上げられなかった。
涙で濡れた顔、見せられるわけねえじゃん。