◆◇◆

「司衣」
「ん?」
「どうして、怒ってたの?」
「…はぁ。わかってなかったの?」

思いが通じ合った日の放課後。最後まで教室に残ったのは、離れていた分の隙間を埋めるため。
もう帰ろうか、と言った司衣に私は問いかけた。

「わかんないよ」
「…じゃあ俺の部屋で、な。ゆっくり話そう」
「うん」

司衣の家までの道を初めて手を繋ぎ歩く。司衣の自転車は学校に置いたまま。どうしても手を繋いで歩きたいって私が我が儘言ったから。

「久しぶりだなあ。司衣の家」
「そうだな」

家の前で立ち止まり司衣の家を眺める。たった数ヶ月なのにこんなに懐かしく感じるなんて思わなかった。

「お邪魔します」
「…今までそんなこと言ったことない癖に」
「うるさいな。なんか付き合えたって思うとどうしても緊張しちゃうんだもん」
「…これからも緊張してたら保たないぞ」
「うん、わかってる」

階段を上った右側が司衣の部屋だ。いつものポジション、つまりベッドに座り司衣の匂いにのする枕を抱き、布団を体に巻きつける。

「なにやってんの」
「んー…司衣を精一杯感じてるの」
「…かわいいな。で、なんだっけ」

司衣はいつも通りソファーに座った。





こんなにも、司衣の近くは温かくて、安心する場所だって、知らなかった。