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放課後の静かな教室で思い出す。
━━ しぃ
そう俺を呼ぶ声が好きだった。
━━ ふふ、しぃは馬鹿だなあ
そう言い見せる笑顔が好きだった。
━━ また、振られた
そう言い俺にしかみせない涙が、好きだった。
産まれてすぐ、もう幼なじみとして傍に居て、それが当たり前で。
その当たり前がたまらなく幸せで。いつからなのかわからないけど、たまらなく愛しい存在として絵莉衣は俺の中心にいた。
「し…岸本くん」
久々に聞いた俺を呼ぶ絵莉衣の声。心なしか不安そうに震えていた。
「ん」
「あの…自己紹介カードだしてないの岸本くんだけなの」
「ああ…待って。すぐ書く」
自己紹介カード。高校に入学して早2週間。担任が「みんなの事を知りたいから」という理由でみんなに書かせたモノ。俺は馬鹿らしいとくしゃくしゃに丸めロッカーに投げ捨てた。それを取り、広げる。
中には
名前、誕生日、住んでる場所、好きな食べ物、好きな教科、そして、【好きな人】を書く欄があった。本当に馬鹿らしい。苛々が爆発し、舌打ちをする。
「唐沢、これ適当に書いて」
「は?自分で書けよ」
「明日の昼、奢るし」
しょうがねえなあ、そんな声が聞こえ、シャーペンから芯をかちかちだす音とカリカリ書く音が聞こえた。
「ほいよ、北沢」
「あ、ありがとう。………え?」
みんなから集めたであろう自己紹介カードが落ちる音がする。絵莉衣を見れば目があった。
「なにやってんの」
「っごめ」
突っ立っている絵莉衣をしり目に散らばるカードをひろい集める。ふと目に入る唐沢が書いた俺のカードと絵莉衣のカード。
【好きな人】 北沢絵莉衣
【好きな人】 しぃ
ああ、どうしよう。
俺今、滅茶苦茶頭真っ白だ。