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景色がこんなにも、色褪せて見えるなんて知らなかった。
「ゆうくん」
教室に来てくれたゆうくん。私の机に着くと好きだよと言ってくれた。素直に嬉しい。でも。
「ふふ、私も好きだよ」
本当に心からは笑えない。どうしてもしぃが気になる。
「あ、ゆうくん英語の辞書持ってる?」
「ごめん、今日持ってきてないんだ」
「そっか…じゃあしぃに借りてくるねっ」
私のクラスに居たしぃに話しかける。
「しぃ、次の授業英語なんだけど…辞書かして」
「…元木に借りればいいだろ」
「ゆうくん辞書持ってきてないんだって」
「…勝手にとれば。つかやるよ。俺使わねえし、北沢いつも借りにくるだろ?正直ウザイ、そういうの」
聞き慣れたくないのに慣れてしまった名字呼び。心臓がドクンと動く。まただ。また、しぃとの距離が広がっていく。
「…しぃ、ねえなんで怒ってるの」
腕を掴みしぃの顔を見ようとする。
「さわんな。…もうお願いだから話しかけないで」
腕を払われる。しぃの声が震えていた。どうして。震えた声を出すならそんなこと言わないで。お願いだからもう、拒絶しないで。そんな思いも虚しく。
「…キタザワ、もう俺お前の顔見れねえよ」
涙が溜まった。借りに来ることをわかっていたようにしぃ側におかれた辞書を借りてトイレに走った。
辞書からすら香るしぃの匂いにもっと、涙が溢れた。
もう、しぃに話しかけるのはやめよう。そう思った。