◆◇◆
「しぃ?」
しぃの家に着くと夕飯までは時間があるからしぃの部屋にすぐ入った。しぃにスウェットを借りていつも通りベッドに座ったら。
「絵莉衣、どうした」
思わず呆ける。しぃは至極真面目な顔で私を押し倒したまま顔の横に手を着き、当たり前のように「どうした」と言ってのけた。
「え?どうしたじゃなくて…なにこれ」
「ん?なにが」
「なにが、じゃないよ。しぃふざけないで」
強気を装ったけど、どうしても声が震える。こんなに怖いしぃ、知らない。
「しぃじゃなくてさ、司衣(しえ)って呼べよ」
「なに、言ってんの?」
手を握られ顔を近付けられ、もうどうすればいいかわからない。
「俺、絵莉衣の泣き顔好き」
泣き顔が、すき?怖い。怖いよ、しぃが。
「し」
「ねぇ、キスして」
名前を呼ぼうとすればそう言われた。堪えきれない涙が溢れる。
必死に抵抗するため手足を動かそうとしたけど、全く動かなくて余計に涙が溢れた。
「しぃ、もうヤダ」
「絵莉衣はそんなに俺の事、嫌い」
問いかけたのか、確信したのかわからない言葉に涙が止まる。
嫌いなんて有り得ないのに。
「私、しぃのことすきだよ」
なにか言いたそうな顔で私を見たしぃは私を離すと「メシ作る」と階段を下りていった。
しぃの事がすき。その言葉に嘘偽りは、ない。