「お前がそんなこと
心配しなくていいの。」

灰二は私の頭を掴んで
ワシャワシャと揺らした。

おかげで髪がぐちゃぐちゃだ。

「本当に?」

乱れた髪を手櫛で直しつつ
灰二を見上げる。

やっぱり、あの顔だ。

「本当だって。
別にそういうことじゃないから。」

灰二はそう言うと
玄関の方へ歩き出した。

なんとなく思い出した。

あの顔は
傷ついたときの顔だ。

灰二は本当に傷ついたとき
ほどあの顔が出る。

皮肉なほどに、
傷つくほどあの
穏やかな顔になる。

灰二が私の
近所に引っ越して
来た時もそうだった。