そんな馬鹿な。

この場所を知っている。

この僕が?

似ているだけの街の名前を。
目の前の川を。
この周りの地域の名前を。
あの橋の名前を。

僕は知っている?

幾つもの名前が。
その場所での記憶が。

ふっと浮かんでは消え、
浮かんでは消え。

これではまるで。
思い出じゃないか。

「は・・。どうなってんだよ。」

乾いた笑いと共にでた
問いかけに、答えられる
答は今はまだない。

浮かんできたものを
言葉にするのが躊躇われた。

形にしてしまったら最後。
どうしていいか分からない。

僕は誰だ?
壱川灰二だろ。

あの街に暮らしてきて、
玲っていう幼馴染がいて、
直と瑞希、皓太って
いう友達がいて。
母さんがいて、兄貴がいて。