「そうね。でもきっともうすぐ帰ってきてくれるわ。そしたらまたごちそうにしましょうね」

 無邪気さは時に残酷だ。
 
 なんでもないようなごく当たり前の……けれど私の考えが当たっているならば二度と叶うことのないそのささやかな願いは、触れてはならない痛みを抉る言葉。

 それでも顔色ひとつ変えず、レンに微笑みかける母の顔を見ると、胸が痛んだ。

「ルーシー? どうかしたの?」

 なかなかスプーンを動かそうとしない私に母が不思議そうな顔をして尋ねる。

 いけない。

 私が気が付いていることを母に悟らせていらぬ心配をかけてはいけない。

 私ももう子供と呼べるほど幼い訳ではない。

 愛すべき善良な母を、弟を、自分なりに守りたいと思う。

 今、この場を守るために必要なもの。それを口元に造形し、母に答える。笑顔は時に全てを隠してくれる。

「ううん、なんでもない……おいしいね、ありがと……」

 私が言いかけたその時だった――