こんにちは、バカップルです。

新幹線の時間も迫って来た頃に戻って来た奏介は見たこともないような不機嫌な顔。



「どうした?」

「頭がおかしいのかアイツは!!」

「な、なんで?」

「この俺が時間を裂いて会いに行ってやったと言うのに!!『奏チャン、このお花はね~』とか道端に咲いてる花の説明始めやがった!!」

「で?」

「『風船で空飛びたい』とか『カメは本当に長生きするのか』とかっ!!だからなんだっつーの!!」

「うん……」

「若干ツボった……」

「「えぇぇぇ!?」」



奏介って頭良すぎでバカになったんじゃねぇの?



ツボがわからん……。



「俺はアイツの頭を正常な動きにしてやりたい!!」

「うん、頑張れ……」

「頑張る。帰るぞ」

「「はい……」」



晴れて奏介に春が訪れたのでよしとします。



「駅まで送ってあげるから車に乗って~」

「「はぁい」」



冬休み、仕事と芯チャンを満喫できました!!



では、僕たち島に帰って真面目に頑張ります!!



「風邪ひかないようにね!?」

「うん」

「ご飯ちゃんと食べるんだよ!?」

「うん」

「イジメられないようにね?」

「大丈夫」

「早く戻って来てね要……」

「司は……?」

「あ、司もね。奏介もまたね」



母ちゃん、要を溺愛中…。



まぁ俺的には嬉しいけど。



照れてる要と一緒に新幹線に乗り込んで指定席に座った。



「最近母ちゃんの愛情を感じる…」

「よかったじゃん。俺より要って感じ」

「えっ、俺、邪魔だったりする?」

「は!?なんで!?」

「司の母ちゃん奪ったみたいな……」

「キモイこと言うな。この歳になって誰がヤキモチ妬くんだよバカ」

「そうならいいんだけどさ…」

「遠慮してっと親父にシバかれんぞ」

「ですね!!」



早く帰って時間が過ぎればいい。



要もあの家で暮らしたいだろうから……。



新幹線から降りて船に乗ったらもう島だ!!



「ただいまカヨ姉っ!!」

「おぅ、あたし結婚するから」

「「はぁっ!?」」

「デキた。ガキ」

「帰ってきた一発目がそれって……。じゃあカヨ姉は管理人辞めんの!?」

「来年からノブがこっちに来るよ。産婦人科ないから島出なきゃなんねぇし。あたしは渚の嫁業」

「すっげぇ急展開……」

「お前らが閉じ込めたからだっつーの!!」



へっ?



そんときの子供なの?



なんか……ヤダな……。



「名前、お前らにつけてもらおうかと思ってる……」

「「マジでぇ!?」」

「一応……お前らのおかげだし…なっ!!」



島に帰って来てよかった。



カヨ姉のこんな顔二度と見れねぇ。



「俺、カヨ姉好きだよ」

「俺もっ!!」

「あたしモテんだな!!ほら、さっさと荷物置いて来な。メシにするよ!!」



もう少しで俺はこの島を出る。



でもこの島でのことは一生忘れない。



【芯】



なんでこんなことになってんの?



あたし、イツキさん嫌いなんだよ。



「あたし降ります」

「ココチャン、仕事だよ。1年契約したんでしょ?」

「だけどキスするなんてムリですよ!!カメラマンならしてるような角度から撮るとかできないの!?」

「出来るけどイツキ君が……」



新人のくせにワガママ言ってるあたし。



ブランドのモデルを1年契約でイツキさんとやってるんだけど…。



「イツキさん、あたし撮りませんから」

「別にいいんじゃん?仕事でキスするくらい」

「イツキさんが根回ししたの?」

「まさか。俺はもらった仕事を着実にこなすだけ」



ニヤッと笑うイツキさんを見て確信、コイツの仕業だ…。



社長はあたしに任せるって言うし…。



司に言ったら絶対キレそう…。



もうすぐ司が帰って来るのに…。



「ココは態度デカい」

「だからなんですか。すぐ泣くバカ女よりマシでしょうが」

「ははっ!!そういうとこが好き」



この人ウザイ!!



イツキさんは余裕の表情でコーヒーを飲んでて…。



あたしはイライラがおさまらない。



ムカつく、ムカつく…。



「ツカサもしてたっけなぁ~、去年のこのブランドモデルで」

「ウソ!?誰と!?」

「アメリカ人」



司もしたの?



あたしはイツキさんとしなきゃダメなの?



こんな大きな仕事、手放したくないのが本音。



でもキスはムリ…。



「ちょっとトイレ行ってきます」



トイレに行くふりをして電話をかけた。



相手はもちろん司。



「キス!?イツキと!?」

「うん……」

「やんの?」

「やりたくないって言ったけど……やるか、あたしがモデル降りるか…」

「マジか~…。もうヤダ……芯チャンのバカ……」

「ごめん……」

「いや、芯は悪くねぇんだ……。俺が芯の立場なら……多分やる」

「えっ!?」

「仕事だと割り切るしかない。芯には申し訳ないけど、俺だったらやる。後は芯の判断に任せるから」

「うん……。わかった……」



任せるか……。



やってもやらなくても代償は大きい。



やらなければ失うものの大きさと、社長や、その他の人への申し訳なさが残る。



やれば司を裏切るような気がしてしまう…。



でもプロになったんだもん。



「あたし、やります」

「そうこなくちゃ。じゃ、早速始めようか」



意地とかプライドとか、きっとそんな類のもの。



これをやらなければ司には着いて行けないような気がしてならない…。



「準備OKだよ~」

「お願いします」



あたしは司に着いて行くって決めたもん。



意を決してイツキさんと向かい合った。



「やっぱり俺のになれよ」

「死んでもイヤ」

「頑固……」



イツキさんとした司公認のキスは、やっぱり心が苦しくなる。



チクチクどころじゃなく、ジンジンする…。



「はい、OKだよ」

「お疲れ様でした」



撮影が終わった瞬間に逃げた。



トイレに駆け込んで口を洗う。



顔も一緒に洗った。



泣いてるなんて思われたくなくて…。



だからひたすら洗った。



着替えてスタジオを出ると、止まってた一台の高級車。



「送るよ」



車の外でイツキさんがあたしを待ってたみたいで…。



シカトして歩きだした。



「ココ」

「なにか不満でもあるんですか?」

「つれないねぇ~、そんなに司がいい?」

「司がいい」

「俺にしとけば?」

「するわけないし。ついて来ないでくれます?」



ついて来るイツキさんから走って逃げようとした。



ガッと掴まれた腕…。



「俺はお前が欲しい」

「大声出しますよ?」

「出せるもんなら出せば?こんな人通りの多い」

「助けてくださぁい!!」

「は!?お前マジやめろよっ!!」

「離してっ!!さようならっ!!」



振り切って歩きだした。



その後のイツキさんなんか知らない。



知らない知らない知らない…。



あんなヤツ…。



あんなヤツとキスしたなんて……認めたくない……。



その日司から来た電話でちゃんと話した。



キライな人とキスするって辛い……。



「仕事だから仕方ないしな。相手がイツキっつーのがムカつくけどさ」

「司はイヤじゃないの?あたしがあんなヤツとキスしたのに……」

「ヤダよ。すっげぇイヤで……芯を今すぐどうにかしてぇ……」

「ごめんね司……」



悲しい電話だった。



終始優しい口調だった司の声が余計苦しい…。



こんな時に司に抱きしめてもらえたら少しは気も紛れただろうけど…。



今はその司がそばにいないから…。



次の日の学校で茉鈴に愚痴った。



「あたし知らないし。あんたの仕事とかよくわかんない」

「だよね…。愚痴ってごめんね?」

「別に?芯ってあんまり本音言わないから少し嬉しかったけど」

「茉鈴様っ!!好きっ!!」

「あのさ、天道 司の時のテンションをあたしに向けないでくれる?超欝陶しい…」



話しを聞いてもらえただけでもスッキリした。



それから聞いた茉鈴の話し。



もちろん要のこと。



「毎日メールしてる!?」

「いや、正確にはあっちが一方的に。10回に1回は返してるけど。アイツあたしが好きなの?」

「へっ!?」

「なんていうか、感じる。好き好きオーラ」

「茉鈴は要がイヤなの!?」

「イヤじゃないけどどうでもいい」



茉鈴が恋することってあるんだろうか……。



要にはうまくいってもらいたいけど茉鈴の気持ちも大事だし……。



「なんで彼氏作んないの?」

「縛られるのが嫌い。それに若い男ってヤったら冷めるとかさ、それ目的多くてイヤ」

「要はそんな人じゃないよ!?要は純粋な人だから……」

「芯はあたしと要をくっつけたいの?」

「うん!!要は超いい人だから!!幸せにしてくれるはずだと……思います」

「あははっ!!なんであんたが必死になってんの~!!」



だって要の恋も応援してあげたいんだもん…。