凜は姿見の横に置いてある赤いカラーボックスからウェットシートタイプの化粧落としを出し、くわえ煙草のまま目元を擦る。
この手のタイプは大して化粧落としの効果を発揮しないが、とりあえずお風呂に入る前に軽く厚化粧を落としておきたかった。
しかし目元から肌色が見える前に鞄の中で携帯がなった。
―着信 志賀さん―
『…もしもし。』
『凜ちゃんがこの時間にもう起きてるなんて珍しーねぇー。じゃー今日は5時には出勤できるね?』
うん。とだけそっけない返事をした。
このテンションの高い男は凜の働くヘルスのスタッフで志賀敦。
毎日こうやって凜にモーニングコールをくれる。
そうしないと凜は夜中まで寝て出勤してこないからだ。
『よしよし。じゃあもう予約とっとくから遅刻しないよーに!』
『わかった。また後で。』
寝起きの凜は少々機嫌が悪い。
学生の頃から低血圧の貧血持ちで、街中で倒れたことも幾度かあった。