取りあえず、人間はやけに豪華なリビングの無駄に高そうなソファに置くことにした。
アルテミスにその旨を伝えた。が、直後にドサッと、生き物を扱う音ではない音がした。


「…アルテミス。気を失ってるからってそれはない。」

人間は、ソファに重力に任せてうつ伏せに落とされ、思い切り顎は硬い手摺りに打ち付けられている。
不憫な。
切実にそう思った。


「え?…ああ、ごめんなさい、つい。……それにしてもゼウス様は一体何を考えているのかしら…。」


ついはないだろと突っ込みたかったが、そのあとに続いた言葉にそれを飲み込んだ。

アルテミスは、人間をじぃーっと見続けている。
物珍しいのだ。


「…さぁね。彼の考えてることはよく分からない。第一、わかる人いや、わかる生き物なんて居るの?」

「…居ないって思うけど、それじゃあ、あんまりにもゼウス様がー。」

「ゼウスに生まれた彼の運命-さだめ-だよ、アルテミス。心優しいのは全然良いけど、同情は好くないね。」


アルテミスは反応を見せず、しばらく人間を見つめた後、お茶を煎れてくると、リビングを後にした。

「…ここのみんなは全員、優しすぎるんだ……」


人間の頭の近くに胡座をかいて座る。そして彼の頬をつつく。

「ホント馬鹿みたいに、ね。」


ー甘いんだ。

「んっ………」

すると、目の前の人間が僅かに動いた。目を開けるんだろうか?
どんな瞳の色なのか、気になっていたアポロンは、楽しみで仕方ない。


「わっ、起きる?起きる?」

ニコニコしながら、それを待つ。

少し、間隔が開いた後、人間の瞼がゆっくりと開いた。目に付いたのは、深い深い翠色。開いたその瞳は深いエメラルドグリーンをしていたのだ。

(うわっ、思った通り綺麗な色…)

アポロンはそのまま、ずいっと人間の顔に自身の顔を近づける。
さっきまでは目の前の人間は、まだ完全に覚醒していないようだったが、今のでさっぱり覚めたようだ。

「わっ…!だ、誰!?」


思い切り、後ろに仰け反った。

漆黒の髪に、翡翠の瞳、陶器のような白い肌。
もう綺麗なものは見慣れたと思っていたが、とんだ勘違いだった。
浮き世離れした美しさの少年が此処にいる。