チラッと時計を見る。
うん、そろそろ帰る時間だ。
みんなが話に花を咲かせている中、重たい腰を上げた。


「んじゃ、俺帰るよ。」


「おお、じゃあなイザナギ。」


カバンを掴んでいる間に、親友が一番に反応した。


「じゃあなー。眉目秀麗のイザナギ様!変な奴に襲われないようになぁ〜」

それにみんなが続く。


「五月蠅いな!大丈夫だよー…。俺、男なんだし。」

「あっはっは、冗談真に受けんなし!」


バンバンと背中を叩かれる。





みんなの大爆笑を背中に感じながら、俺は帰路についた。

部活終わりに、直ぐに帰らないで話し込むことは、たいてい毎日だった。

それで、やんわり門限がある俺が一番最初に帰るっていうのもいつもと変わらない。



そう、今日も変わらないと思っていた。


そんなに広くもない狭くもない路地裏を曲がった。
だが、いつもと違った。
曲がった先で1人、立っていたのだ。自分に背を向けた人が立ってるだけ、そうただ立ってるだけなのに何故か、もうこの道は通れないと直感した。
明らかに目の前の人間を避けて通ればいいだけなのに、通れる気が少しもしなかった。

ただ立ち尽くしていた。


「っ……!」

息を飲んだ。
その人が此方を振り返ったのだ。
眼が合った。

美しい空色の瞳だった。


その視線に背筋が凍りついて動けなかった。


「…逃げないのだな。」


目の前の人は顔に似合わず、低い声を出した。そこで初めて男であると理解した。

というか、逃げる?
逃げられたら逃げてるよ!

そう思いながらも、体はまったくびくともしない。

「…気に入った。」





その一言を聞いた瞬間、イザナギの意識は闇へ沈んだ。