「ちょっと!」

「はい?」

受付のテーブルを叩かれて、私は顔を上げた

「わたしの話を聞いているの?」

「ええ、有栖川とお見合いして良かったですね」

うーん

竜ちゃんとの旅行、どうしようかな

今となったら、どうしても行きたいって気持ちがなくて…

なんか一度、行かないって心の中で決めたら

行かないっていう方に気持ちが傾いてるんだよね

「ねえっ!」

「だから、何ですか?
ゆっくり考え事をさせてくださいよ
竜ちゃんとのことで頭がいっぱいなんですから!
余計なことを吹きこまないでくださいませんか?
忘れちゃうんですから、私…違うことを考えると」

私の言葉に、横に立っている椎名さんの顔がぽかんと間抜けになった

「は?」

「乙葉…お前の負けだ
大人しく座ってろ」

黒いスーツの男性にずるずると引き摺られながら、椎名さんがソファに座った