「あらあ、聖一郎はどうしたの?」

障子をあけて、聖子さんが入ってきた

乱れた着物を見て、嬉しそうな顔をしている

残念だったね

何もなかったよ

聖子さん、何でも思い通りに人が動くと思ったら大間違いだ

聖子さんの後ろから、黒いスーツに、グレイのワイシャツを着ている長身の男が入ってきた

元だ

無表情…鉄仮面…

その冷たい顔の裏で何を考えてるんだよ

「帰りました」

「え?」

「なんか急いで…帰っちゃいました」

「ふん…今度はあの子を抱きに行ったのね
今度は量を調節する必要があるかしら?
…それとももうその腹の中に、子が宿ったかしらねえ」

それはない

だってやってないんだから

妊娠なんてしてるはずがない

「乙葉さん、御苦労さまでした
奥に布団を用意してありますから
今夜はゆっくりして、明日帰るといいわ」

「ありがとうございます」

聖子だけが部屋を出ていった

わたしは放り投げた上掛けをずりずりと引き寄せると、肩にかけた