『じゃあ、僕は帰りますから』

そう言って、聖一郎が出ていった

わたしに指一本触れることなく、この部屋を出ていった

これで、いいんだろ?

わたしに選ぶ道はないんだろ

なあ、元
あんたはわたしが抱かれているかもしれないっていうときに

何をしてるんだよ

同じ敷地内にいるのに

ただじっと帰る時間になるのを待っているだけなのかよ

夏の暑い外で

ただじっと待っているだけなのかよ

わたしが嫌がっているかもしれないとか考えないのかよ

ただの執事じゃねえだろ

ただのボディガードじゃないんだろ

あんたの実家は、金持ちじゃん

どっかの企業の社長なんだろ?

わたしを連れ去ってくれたっていいじゃん

…ってそれほどの女じゃないってこと、か

あいつから見たら、わたしはただの小娘にすぎなくて

椎名家の女ってだけ

何の感情も湧かない女なんだ

…やばっ

なんかそう考えてきたら涙が出てきた