トイレから出てきた冴子が、また左肩を壁にぶつけた

「いってぇ…」

冴子は肩をおさえると、その場に蹲った

「冴子?」

「わりぃ…いつもなら平気なのに…気をつけてるから
ちゃんと歩けるのに、ごめん」

ちゃんと歩けるのに…ってどういうこと?

「俺さ、左目の視力が…ほとんどねえんだよ」

「え?」

視力がないって、見えてないってこと?

「事故で…目を怪我したんだ
もう何年も前だし、コンタクトも入れてるからそんなに不便じゃねえんだけど
気を抜くと、つい視力が弱いのを忘れて、感覚がわからなくなっちまう」

「冴子…」

「あいつの耳も俺が奪った
俺の運転する車が事故って、俺は左目の視力を
あいつは聴覚を失ったんだ
だから…俺はあいつに会いたくない」

冴子は一瞬だけ微笑んだ

すぐに立ち上がると、ソファに戻る