「今日のこと、聞いたの?」

愛子さんが小さな声で質問してきた

「ええ、聞きました
高波さん、今度は僕を脅してくるそうですね」

「え?」

愛子さんが目を丸くして、僕を見た

あれ?

愛子さんはもしかして、何も聞いていないのでしょうか?

「藤城君と婚約者…という設定なのでしょ?
僕とは浮気をしている、と高波さんが思っているなら、僕も彼の金づるになるのでしょう
全く払う気はないですけどね
浮気じゃないですし、藤城君と婚約者なんて考えるだけでもおぞましい」

思わず鳥肌が立ってしまいそうですよ

「おぞましい…って」

愛子さんが苦笑する

「愛子さんは僕のモノですよ
何があったって、藤城君の元に渡すなんて…嫌ですから」

遠くで見ているだけで、何もできない頃になんて戻りたくないんですよ

愛子さんを見たくて

ただ見ていたくて

興味もない剣道道場に通ってみたり…

家が華道家なのに

愛子さんの家の華道教室に通ったり

会話するなんて夢のまた、夢の世界

そんな生活に戻るなんて、今も僕にはできない

愛子さんが隣にいてくれる生活に慣れてしまった今の僕には、無理ですから