「ふうん、そういうこと」

高波さんが勝ち誇った顔をすると、椅子の背もたれに背中をつけた

「は? 何、笑ってるの?」

竜ちゃんが、怖い顔をしている

「いえ…そう、愛子ちゃんには婚約者がいるんだ
愛子ちゃんにはすっかり騙されるところだったよ
俺は、これで失礼するよ
藤城君だっけ?
君も、婚約者だからって信じ切っていると痛い目を見るよ?」

高波さんが鞄を手に持つと、席を立った

店を出て、大通りに姿が消えていくのを私はじっと見つめた

「愛子を信じ切っているから、痛くないってこともあるのにね」

竜ちゃんがにこっと笑って、机の下に隠している手をポンポンと叩いてくれた

「小山内先輩のマンションに行こうか?」

「え?」

「それともすぐに有栖川さんのところに行く?
僕はどっちでもいいよ
小山内先輩への報告なら僕、一人でもできるから」

竜ちゃん、心配してくれてるの?

「私なら…」

「平気には見えないから、言ってるんだよ
まだ震えてる
強がらなくていいんだよ
強がる相手はもういないんだから」

竜ちゃんが私の鞄を持って歩き出した

「大丈夫
もしかしたら…高波さんが見てるかもしれないから」

「それはあり得る
とりあえず小山内先輩のマンションに避難しようか」

私はこくんと頷いた