大抵は彼女がほしいとかそんなのばかりだけど。

そんなことをぼうっと考えていたが、突然のケータイの着信音で現実に戻される。
ポケットからケータイを取り出して画面を見る。
友人の大介からだった。

「おい裕也、今日勉強会するんだろ?みんなもう集まってるぞ」

完全に忘れていた。

「お…おぉ、別に忘れてなんかないぞ、今から行く」

俺は電話を一方的に切ると、急いで服を着替えて自分の部屋を出て、玄関のドアを開けようとしたところで日課を忘れていることに気づき、居間の方へ戻った。

「母さん、行ってきます」

母の遺影に手を合わせて再び玄関まで早歩きで行く。
生まれた頃から母親の顔はこの写真の顔しか知らない、俺を産んですぐ死んでしまったらしい。
それから親父が男手一つでここまで育ててくれた。
すごく感謝している。

俺はマンションの階段を急いでかけ下りて駐輪場へ向かい、自転車のロックを外して跨り、猛スピードで自転車を漕ぐ。
目指す場所は駅前の図書館、自転車なら二十分くらいだ。

「あ…筆箱忘れた…」

そのことに気づいたときは既に、長く急な坂道を下りきった時だった。