「君、名前は?」

そんな言葉で沈黙を破ったのは意外にも少女の方だった。
「刹那」
青年がいった。

刹那…─セツナ─
その名前を少女は何故か愛しいと思った。懐かしいと思った。


「私は…彩那」
偽名だろうか。それは誰にもわからない。ここは夢の世界だから。少女が作り出したもの、勝手に思い込んだものかもしれないから。

少女…彩那が名前を言うと、青年が何か言いたげに彩那に寂しげに瞳を揺らした。

「どうしたの…?」
その瞳に彩那は首を傾ける。何故?理由が見付からないからだ。
だけど青年は
「来て。」
彩那の問いかけには答えようとせずに扉をしめた。仕方なくついていくことにした。
だが扉を開け外を確認するとどこまでも続きそうで長い廊下があり青年の姿はもうなかった。あったのは小さなアンティークのテーブルの上に置かれた一つの壺だけだった。
彩那にはその壺が寂しそうに見えた。