後ろを振り返ると、見慣れない少女がベット脇に立っていた。
大きい緋色の瞳、深く被った赤紫がかった帽子、そして腰まである美しい紫の少女。スカートは膝より遥か下まで丈があり、そのスカートの色は青紫。
「…誰だ」
「私は、「アユミ」」

少女の声は、夢と、今先程脳裏で聞いた声。淡く、繊細な声。

「アユミ…?君は一体?」
「私は守(かみ)の使い」
「かみ…の、つかい?」
「はい」

アユミと名乗った、少女の薄いピンクの唇が、小さく動く。

「私は貴方を見守る為にきました」
「…僕、を?どうして?」
「貴方には、誤って特殊な遺伝子が混合してしまったためです。その遺伝子の名はメゾ。」
「…?」
「遥か太古、地球を作り出した元と言われる異世界「楽園(エデン)」、その場所に居た特殊な遺伝子を所有する「少年(アダム)」は、このもう一つの世界を創り出したのです。それから「少年(アダム)」はその遺伝子を継がせ、このもうひとつの世界を見守る者を、その遺伝子の持ち主としました。」
「ま、まってよ」

マコトは一方後ろに後退する。だが、少女はマコトの声に反して、言葉を続ける。その表情は、頑なに変わっていない。

「こちらの世界の人たちはご存じないのですね…「少年」が分けた世界は、違った二つの力を司っているのです。この世界は「科学(informatico)」、そして、私がやってきた世界は「魔法(sortilego)」」
「インフォルマーティコにソルティーレゴ?」

聞いたことのない単語にマコトは首かしげる。少女は小さく頷いた。

「私達の世界ではこちらを「フォルティ」、そして
こちらの世界から見てもうひとつの世界を「ソルティー」と呼んでいるのです。私は「ソルティー」からやって来たのです」
「…そんなの、信じらんないよ。」
「それは尤もですね」

こちらの世界ではありえない出来事が普通になっている、もうひとつの世界。そんなことを行き成り言われても、誰も信じないだろう。