エレベーターだけではない。この施設のどの扉も、所属章がなければ開かないはずだ。

結論として――ここは、野々村の言う理由ごときの覚悟で忍び込めるような場所ではない。

それこそ、野々村に特殊な技能か、あるいは特権でもない限りは――

「野々村、お前――666なのか?」

可能性として充分に考慮できる推測は、

「スリぃスィックスぅ? あははっ、なんじゃそりゃっ! 知らん知らん!」

豪快に笑い飛ばされたことで、完全否定された。

へらへらした彼が、ふらふらした自分の腕を掴んだ。

「ほれ、とりあえず立てよ」

「っ」

促されて引き上げられるままにされると――またいつの間にか、手枷が外されていた。

なにかが、爪先の辺りに転がっている。知らないうちに、彼がはずしたのか。いったいどうやって。

なおさらことさら、もう、わけがわからない。

(野々村、お前はいったい、何者だ?)

どれだけ睨んでも、野々村から答えが滲み出るわけもない。ただ、闇の中に彼の気配がするだけである。

それでも表情などを予測できるのはやはり、

「つーかなんだな。ここぁ湿っぽいなぁ」

野々村の言葉が、いちいち情感に溢れているからだろう。