「そういえば茉梨亜、ウィッグどうしたの」

「あーさっきグラサン男に捕まった時頭に引っ掛かって取れちゃったの」

「……」
折笠はすぐに動けずにいた。
少年が使った黒い物体は、確実に火薬物だろう。

(……これが、スラムの現状?)

正直、慄然とした。
民間保護などと銘打っているこの地区が、いかに危険な所なのかと。

(管原さん……貴方の言った事は本当なんですね)


冷たく目を細め、折笠も硝子を越えて部屋へ踏みいった。



部屋は思うより広く、だが鉄色をしていて酷く冷えた印象を受ける。

壁際には資料棚がずらりと並び、ぽっかり開いた中央には白いシーツが敷かれた広い台。

……それは調度ダブルベッド程の広さで。


どういうわけかその台は床から天井までのガラスで四方を囲われ、隔離の様にされている。

その存在が異様すぎた。


「……ッ!」
「茉梨亜っ?」

急に茉梨亜が膝を落とす。床に手を付き、顔は一瞬にして青ざめていた。

「どうしたの……」

咲眞もしゃがみ、茉梨亜の背を支える。
が、どことなく咲眞の顔色もすぐれない。


(……なんだ?ここ)


無機質な空間に何故か既視感を覚える。


勿論こんな場所なんて知らない。

知らないのだが――


「……気持ち悪い」

茉梨亜は白いベッドを凝視して口を開く。

「……なに?」

上手く聞き取れず咲眞が聞き返すと、茉梨亜は嫌悪の目でそれを見つめた。


「ここ……黒川の所と似てる」




咲眞の口からは何も出なかった。


黒川邸の部屋とは雰囲気も空気も全く違う。

あそこはもっと白く、綺麗な場所に仕立て上げられていたけど。


似ている。

そう感じるのは……咲眞も内心でそう納得してしまったのは、何故だろうか。



「塔藤さんが言ってたの」

ぽつりと茉梨亜が言う。

「……人のやってるとこ見るって」