時間は少し前に遡る。





研究所内、緑の多いカフェテラス。


「さっき建築調査のねーちゃんに会ったんだよ」

「建築……?あぁ、A…なんとか、か」


小さな円形テーブルに管原と勅使川原が腰掛けている。

所員である店内の客は多くも少なくもなく、皆談笑したり資料を見たりとそれぞれ過ごしていた。


「AMNな。いつもじーさんが来るんだけどよ、今日は若い女でな……」

管原は紙コップのコーヒーに少し口を付け、首を傾げる。

「なんだ、さっそく唾を付けたのか」

「ちげーよ、おまえ俺が女の話題するとすぐそれだな」

「……」

日頃の行いだと言わんばかりの勅使川原の表情に、一瞬管原は圧倒される。

「……で?その女がどうかしたのか?」

「いやぁ……どうかしたっていうか、ま美人だったんだけど誰かに似てた様な……」

明後日の方を見ながらズズズとコーヒーを啜った。


「誰か……」

勅使川原もそう呟いてふと顔を上げる。

「にしてもこのコーヒーあちぃな」

「あちぃなじゃないわよこのコーヒー馬鹿!」

「!?」

頭の上から予期せぬ罵声が降ってきた。

「っだ!ちょ、おもぐそ飲んじまっだじゃね゙…」
舌先に火傷でもしたのか滑舌の回らないまま管原が見上げると、真上に棗の顔があった。


「げぇッ!!棗!さん……バレました?」

「バレました」

勅使川原の目線は既に資料へと戻っている。


「突然部屋からいなくなったと思ったらこんなとこでサボって!勅使川原さんも巻き込んで!」

「俺が先に居たんだけどな」

「とにかく!!」

勅使川原の呟きは掻き消された。

「塔藤君が呼んでるから戻ってきて」

「なぁ前から思ってたけどおまえ俺らに対する敬称がおかしくねーか?なんで勅使川原がさんで塔藤が君で俺が呼び捨てなのよ」

「人徳の差よ」

「塔藤のポジションが微妙って事か。かわいそーに」

「ポジティブだな管原」

「ほら下らない事言ってないで立って立って!」

「はいはい……」