「警備員とか絶対知らされてるんだろうな……」

今でも見張られているのではと再度天井を確認する。


大丈夫、監視カメラは死角になっている……


「あれ、まだここに居たのか」


ぎくりと肩を強張らせる。

角から少し顔を覗かせると、さっき突き放したばかりの顔を見上げる羽目になった。


「塔藤、さん……」

「この階で隠れられそうなのこの辺かなぁと思って来たんだけど」

本当に居たとは、と。

金髪に見られていると思い過ごしていたのは、あながち杞憂ではなかったのか。

律子は小さく苦笑する。


「村崎律子は本当にここの社員予定の子だね。ネットか何かで個人情報買ったの?」

「……えぇ、まぁ」


肯定する。

こうなってはしらばっくれるのも無意味だ。


「凄い行動力だよ。そこまでしてここに入りたかった?」

言われるまでもない。
二人で画策した。
もしもの時は警察に捕まるのを覚悟だったのだが、どちらかが「それでは三人で暮らせない」と……


「そう、言ったから……」

だから、捕まるわけにはいかない。

ばれたならばれたなりに次の行動をしなければ!


「……塔藤さんも暇ですね、侵入者捜しだなんて」

「君を捕まえたら最新ナンバーになるかと思ってね」

「っ?」

くすりとその男は笑う。

「研究所とまだ関わっていない、予防摂取もされず、ただ黒川だけに染まった身体だからね」

「……」

「そうだろう、新庄茉梨亜君」



……やはりしっかり顔を見られていたようだ。

塔藤の言っている事は気になるが、今それは重要ではない。

自分達の目的は、ただ一つなのだから。

「……研究熱心ね、ここの大人は」

律子はゆっくりと角から顔を隠す。

振り向けば暗がりの突き当たり。

こちらに逃げ場はない。

律子はポケットから小さな機械とサングラスを取り出す。


「……アンタなんかに捕まらないんだから!」

機械の鍵を抜く。
そのまま角から塔藤へ飛び出て、その発動した機械を床に投げ付けた。