「あれ?それって……」
「……あぁ、その名前の一人はここに居ますけど」
シティリアートが首を傾げると同時に折笠の声が耳に入った。
「……分かりました。けど場所が場所なので必ずとはお答えは出来ません。無事だった場合に限り追加料金を頂きます」
電話を切って顔を上げると、泉と白髪の子供がこちらを見ていた。
「……折笠さん、貴方……」
「……折角なので、君の話も聞いてみたいですね」
訝しげな泉の反応も気にせず、折笠はシティリアートに微笑む。
……当初より折笠の表情に人間味が出てきた気がした。
「あと……茉梨亜さん、ですか?貴女の事情も話して貰います」
その言葉に泉は目を丸くする。
「え…急に何で…」
「ここの研究員の方とお知り合いなんでしょう?」
折笠はそっと目を細めた。
「貴女の事を研究所内に漏らされても良いというのなら、従って頂かなくても結構ですが」
逃げても逃げてもあの金髪の男に見られている気がした。
「はぁっはぁっはぁ……」
長い黒髪に大きめの茶の眼鏡。着慣れないスカートスーツがもどかしい。
「こ……こんなパンプスじゃ……走れない……」
先程の個室からまだ殆ど離れていない。
塔藤にどこまで案内されてしまったのか、エレベーターどころか階段すら見つけられない。
「周り…見てたつもり、だった……のに……」
切れ切れに律子は悪態を付く。
慣れない研究所。
“村崎律子”は一度ここへ来たかもしれないが、それはプロフィール上の話で、“律子”が研究所に入ったのは初めてだ。
間宮や塔藤に案内されつつ周囲を記憶していたつもりが、やはり勝手が悪いのかこのコンクリート迷路の把握が仕切れない。
各階毎に廊下の配置まで違うとは、厄介過ぎる建造物だ。
「……やばいなぁ」
律子は廊下の端の曲がり角で小さくなって呻く。
塔藤にバレてしまった事実は痛い。