「ご苦労様です」


泉と折笠、恐らくそれぞれの思惑を巡らせるなかで、子供を連れて来た研究員が頭を下げる。

自分達が首から掲げている関係者プレートを一瞥したのか、研究員は特に二人の存在を咎めなかった。


「じゃあシティリアート、きちんと休むんだよ」

「うん」

白い子供が入れられた部屋は444番。


泉はその閉じられた扉を見た……


「……はは」

漏れたのは乾いた笑い。


研究員が再度会釈をし、折笠も無言で軽く返す中で泉はその扉を見つめていた。


そして研究員が立ち去った頃合いでその扉が軽く、そっと開く。

「!」

泉が開けたのではない。

今しがたここへ姿を消した子供が、中から開けたのだった。



「……ねぇ」

子供が発した声は幼く、少女とも声変わり前の少年ともとれる高さ。

その子供……シティリアートは、扉前の泉を見上げるなり口を開いた。


「なんでここにいるの?……茉梨亜」



「……?」


同時に疑問符を飛ばした泉と折笠。

瞬間、泉はハッとし折笠は泉の顔を覗き込む。


「茉梨亜……?」

「久しぶりだね」

シティリアートはふっと微笑む。その元気そうな…というか、顔色が思っていたより悪くなくて、何故か……どこか安心した自分がいた。


「やっぱり……ここに居たんだ」


「え?やっぱりって?」

泉の小さな言葉にシティリアートはきょとんとしている。


そんなシティリアートと佐倉泉が知り合いなのだろうと把握した折笠の手元、携帯のバイブが鳴った。


「……」

名前の掲示を見ると、折笠は躊躇せずにその電話を受ける。


「シアは研究所と関係してるんじゃないかって思ってたから」
少しだけ困った様に泉はシティリアートの問いに答えた。

「それ、ボクの髪が白いから?」
苦笑して見上げると、どこか言い淀む泉の顔。


「……あたしにも、頭が白い友達がいるから」