折笠は泉の背を見ていたが、思い付いた様に口を開く。
「…けれど貴女より僕の方が、ここを動き回る事が出来ると思うんです」
白い廊下に出た泉の足がピタリと止まった。
「僕はこの様な特別視されている場所にも入る事が出来ます。ちょっとしたコネがあるので」
「……」
ゆっくりと振り向くと折笠はどこか妖艶な笑みを浮かべていて、思わずどきりとする。
「僕と居た方が効率が良い気がしませんか?協力してくれとはもう言いませんが、佐倉さんが隣に居てくれるだけで僕は嬉しい」
「……はい?」
嬉しい、とはまた奇妙な言い回しを使う。
折笠はすっと泉に近づいた。
「……どうですか?」
促されるがまま思案する。
……折笠の言う事には一理あるかもしれない。
折笠の目的は分からないが、このまま一人で勝手に行動するのも……
いや、元々単独行動すると決めていた。
折笠という人物が居た事こそが予定外。
その折笠が、自分の身分より行動出来うる範囲が広いと言うのなら……
「……」
相手を凝視する様に頭の中を巡らせていた泉を、折笠はふと無機質な顔で見下ろしていた。
「……分かったわ、貴方と一緒に……」
言いかけて、廊下に人の気配を感じた。
廊下に出た折笠と共にその方向を見やる。
「……あ」
研究員が一人の子供を連れて来ていた。
まだ12、3歳程の年齢に見えたこの子供も、被験者の一人なのだろうか……
「……なんでこんな」
隣に居た泉にも聞こえるか聞こえないかの声量で折笠が呟く。
子供の髪がそれこそ雪の様に真っ白で、また着せられている簡単な患者服から伸びる手足があまりにもか細かったからだろう……
確かに手足は細いが、スラムに住むならこの程度の子供は当たり前に居る。
泉がこの子供を見て異常な事はその髪の白さのみ。
顔色が悪いわけでもない。
つまり、この子供は健康と思っていい……というわけだが……
それならこの白髪は何なのかという謎に行き着く。