話の中身が把握出来ず、泉は横髪を不機嫌に掻き上げる。

「聞きたい事?質問しているのはこっちだけど!」

眼鏡の奥の厳しい目が青年を睨む。

「貴方は結局AMNの人間じゃないのね?でもならその名刺は何?ここには建築の調査に来たんじゃないの?」

「その台詞、そのまま貴女にお返しします佐倉さん」

さらりと返された言葉に泉は目を見開いた。

「……はっ?」


折笠の端正な顔立ちがなんの歪みもなく泉を見下ろしている。


「貴女は、ここへ何しに来たんですか?」

分かりきった事を真顔で問われ……思わず泉は吹き出した。


「何それ、私は」

「確かに僕はAMNの人間ではありませんが、その調査協会の名前を借りています。ですからAMNの人事は把握しているつもりです」


泉は顔をしかめる。
折笠が何を言わんとしているのか……

「……それが何?まさか私がAMNの人事に居ないとでも?」

「はい。そこに貴女はいない」


迷いも無くそう言われ、泉は心外だと言わんばかりにカッとなった。

「!? 居るわよ、何適当な…!」

「正確には佐倉泉という女性所員は存在します。眼鏡を掛けセミロングの黒髪。年齢は22歳、出身大学は……」

泉は再び目を開く。
折笠の口にした泉のデータは、確かに正しいものだった。


「……ちょっと」

「……これが佐倉さんのプロフィールですよね。若干22歳にして特殊建築物等調査資格を持っている女性は珍しい……つまり話題性がある故に、彼女の情報もネットで調べれば大概は引っ掛かる」

折笠は淡々と紡ぐ。
それはまるで“折笠も”泉を調べた事があると言う様な……


泉はそっと目を細めた。
「佐倉泉」をここまで断定して言い切る折笠こそ一体何者なのか。


「あのね……私が、その佐倉泉だけど」

「違います。顔が違う」

「!?」


「……あと背丈も違うし、体格もデータとは多少誤差がある。僕はAMNの個人データとネット上の情報、写真を拝見しましたが、貴女は別人だ」