「この名刺に書いてある肩書、折笠雅人、社・AMN特殊建築物調査会……どういう事かしら?」

その言葉を言われ、ほんの微かに折笠の目付きが変わった。


「……ねぇ折笠さん、私もAMNなの。そうすると貴方が今まで私に言ってた事、矛盾し過ぎていると思わない?」

折笠は泉の事を「同業者」だと行っていた。

人事の関係で各自の仕事を把握しないケースはあるものの、折笠も泉と同じ社の人間であるなら、泉がAMNだと名乗った時点で自分もそうだと告げなかったのは妙である。

そもそも折笠が本当にAMNから派遣されたのなら、管原という研究員とのやり取りが全面的に食い違ってくる……


「……実は」

暫くの間の後、折笠は口を開いた。


「僕はAMNの特務員なんです」

「……え?」

聞いた事のない単語に思わず泉は眉を寄せる。


「特務員…って」

「AMNの中でも極一部のメンバーがひそかに管理する部所です。ちょっとした社会の裏にも繋がりがあって、こういった特殊施設の企業秘密ともなる部分が調査対象……」

「ちょ、そんなのいきなり言われても……それなら、何でそんな極秘の様な調査場所に…私を入れたの?」

泉はあからさまに不審な目を相手に向けるが、折笠はさらりと言ってのけた。

「それは優秀な貴女を今後特務員に加入させる予定があったもので、今回くらいは仕事を共有してもいいかなと」

なんの迷いもなく折笠は今までの経緯の裏付けを説明していく。

「でも、貴方と私は初対面……」

「はい、けれど実は佐倉さんの事は、僕は前々から知っていました」

泉は困惑する様に頭を押さえ、それでもまだ納得がいかない目付きで折笠を見やる。

と、折笠の持つ雰囲気が、微妙に変わった気がした。


そして彼は今言った言葉を全て覆す。

「……とまぁ、この様にいくらでもはぐらかす嘘は付けます」


低く折笠が発した言葉の意味が、瞬時に受け入れられなかった。

「嘘……ですって……?」


折笠はすっと泉を見つめた。

「僕の事を気にするのは構いませんが……僕も佐倉さんに聞きたい事があります」