「佐倉さん?」

扉を見ていた泉が突然早足で進み出したので、折笠は思わず名前を呼ぶ。


扉はまだ先まで続いていたが、プレートが付けられているものは何故か「445」までだった。


「どうかしましたか?」

折笠が訝しそうに近づく……
「!」
と、泉はその445の扉を躊躇なく開けた。



「……」

ベッドしか置かれていない部屋。廊下と同じ全てが白で統一された、四畳程の小さな空間。

中には誰も居なかった。


「……こんなだったっけ」

「鍵が開いてる……どうして」

折笠が唖然としている横を擦り抜け、泉は素早く別の扉へ向かう。

ドアノブを回したのは「443」。


――ガチャッ

「ッ嘘――開いた!?」

思わず泉は声を出した。
が、



「……ここも空ですね」

ひょこりと折笠も443の部屋を覗いたが、先程と同じく誰も居ない。


たまたま被験者として出払っているのだろうか。

それとも……



「調度いい、この部屋を調べましょう」

「えっ?」

無表情な折笠の言葉に意評を突かれるが、折笠はずかずかと遠慮無く部屋に立ち入り、壁などに触れだした。


「ちょ、ちょっと折笠さん?結局調査って一体何の……」

「……佐倉さん、僕達は建築調査員ですよ。建物の調査以外に何をすると言うんですか」

そう言って泉を見た折笠は、妙に大人びた顔をしていた。


「で、も……それにしたって……」

折笠は壁を軽く叩いたり、背広に羽織っている作業着のポケットから何か取り出したりしている。

「それとも佐倉さんは、何か別の目的があるとでも?」

泉を目に止めず飄々とそんな事を口にした折笠は、作業する手を止めない。ただの軽口を言っている様だが……

「私は……」

「おい」

突然泉が立つ背中から声が掛かった。