「折笠さん」

前を歩く青年を呼び止める。

折笠は小さく反応して振り返った。

「……はい」


「あの……調査を手伝うってどういう事なの?」

訊ねると、何故か折笠はじっと泉の顔を見る。

「……?」

首を傾げてみるが、折笠は答えない。そして無言のまま再び歩き出した。


あの管原という研究員に教えられたのだろう通路を辿っていく。

管原と別れた後エレベーターを乗り継いで、かなり階上のフロアにまで行き着いていた。


「……嫌に白い、わね」

泉はそう感想を漏らす。

今までも確かに病院染みた内装ではあったが、ここに来て何処を見渡しても白に塗り固められた景色に眉を顰める。


「……この研究所では医療研究が行われています」

不意に折笠が口を衝いた。

「これから行く個室フロアには、その医療研究に最も携わっている被験者達が居ます」

「へぇ……」

研究所が医療関係という事は泉も勿論知っているが、詳細部分は告げられていない。

あくまでも自分は建築調査員なわけで、施設内情などは知らされないし知らなくてもいいものだ。


それは折笠も同じはずなのだが……


「……それで?一体何を調べ……」


再び問い掛け様として泉は足を止めた。

廊下に整然と並ぶ白い扉達。

ドアには小さなプレートが付けられ、黒い数字が打ち込まれているのを目にする。


「……440」

無意識にその数字を呟いていた。

「……これって」

「被験者の番号ですね」

折笠は何の揺らぎもなくそのプレートを見つめる。

「部屋の中にはそれぞれ被験者達が居て、外からロックが掛かっているはずです」

見れば扉のノブのすぐ上に、電子ロック用の数字パネルが嵌め込まれている。

扉と扉の間は狭く、つまり一つの部屋がそんなに広くない事を示していた。


「個室、か……でも、これじゃあ檻みたい」

「……」

渋く言い放った泉に対し、折笠は何も言わない。


泉は再度廊下を見やる。

手前から奥へと番号が加算されている。440、441……廊下を挟む向かいは、430、431と続いていた。